AIは、京都のあなたの店を
正しく紹介しているか
——体験施設10軒を、日・英・繁体字・簡体字で調べてみた
1. 四つの事例
AIは、事業者を四つのいずれかの状態で扱っていました。
事例A|正しく理解されている
A店|茶道体験・清水寺エリア・個人経営
「A店の費用と所要時間は?」と聞くと、AIはこう答えます。
- 相席プラン ¥3,300/約40分
- プレミアム相席 ¥6,600/約50分
- 貸切 ¥30,800/最大10名
- 5歳以下のお子様連れは貸切プランをご予約ください
すべて正確です。 引用元はいずれも同店の公式サイトでした。
そして注目すべきは、繁体字で聞いても同じ精度で返ってくることです。同店が中国語ページを用意しているため、AIはそれを引用できます。
個人経営の小さな店です。それでも、AIは完全にコントロールされていました。
事例B|内容を創作されている
B店|茶道体験・自宅の茶室で開催
AIはこの店を認識していました。住所も、営業時間も、口コミ評価も正確です。
しかし——料金は一切答えられませんでした。 そして所要時間について、AIはこう書きました。
体験時間(約60〜90分程度のプランが多い)
この数字に出典はありません。 AIが他店の相場から推測して、空欄を埋めたものです。
さらに同じ回答の中で、AIはB店を他の茶道体験施設と並べ、「それぞれの違いも比較してご紹介できます」と述べました。つまりAIは、B店について「他の茶道体験と同じようなもの」としか理解していないのです。
これは、オーナー本人が最も気づきにくい状態です。名前は出てくる。住所も合っている。だから問題があるとは思わない。しかし中身は、AIの想像で埋められています。
事例C|「存在しない」と言われる
C店|着物レンタル・東山エリア
Googleの評価は4.9、口コミは500件を超えています。外国人客からの評判も上々です。
その店について ChatGPT に聞いた結果は、こうでした。
「(C店の名前)」という名前のお店は確認できませんでした。
そして代わりに、名前の似た別の店を二軒、提案してきました。
繁体字ではさらに明確でした。
京都には、その名前の店は見つかりません。
500件を超える高評価は、AIには一切届いていませんでした。
事例D|他店に吸収される
同じ質問を、もう一度しました。すると今度は違う答えが返ってきました。
(別の店名)のことだと思われます。評価は5.0、口コミは約1,600件以上と非常に好評です。
これは別の店です。 同じ京都市内にある、漢字表記が一文字違う別法人。自社ドメインを持ち、京都市の観光サイトにも掲載されている店でした。
つまりAIは、証拠を持たないC店を、名前が似ていて証拠を持つ別の店に統合してしまったわけです。
注目すべきは、AIが「〜だと思われます」と書いていることです。AI自身、確信を持っていません。同じ質問に2回、矛盾する答えを返したことが、その証拠です。
AIはC店を知らないのではありません。判断の根拠を持っていないので、毎回推測しているのです。
この状態の何が怖いか。C店の500件を超える高評価が、いま競合の集客を助けている可能性があるということです。そして店側には、それに気づく方法がありません。
2. 何が明暗を分けたのか
規模ではありませんでした。
| 口コミ数 | AIでの扱い | |
|---|---|---|
| C店(着物) | 518件 | 存在しない/他店と混同される |
| A店(茶道) | 272件 | 料金まで正確に説明される |
口コミの多い店のほうが、AIには見えていませんでした。
違いは、それぞれの店の「情報の置き場所」にありました。
| 情報の置き場所 | そのページの主語 | 結果 | |
|---|---|---|---|
| A店 | 自社サイト(日・中) | A店 | 正確に引用される |
| D店 | 予約SaaSのページ | D店 | 認識・引用される |
| B店 | 無料CMSのページ | B店 | 認識されるが引用されない |
| C店 | 予約プラットフォームの商品ページ | プラットフォーム | 実体として成立せず |
C店の「公式サイト」として登録されていたのは、予約プラットフォーム上の商品ページでした。そのページの主語は、C店ではなくプラットフォームです。
AIから見ると、C店は「店」ではなく「ある予約サイトの一商品」なのです。
ここから見えてくる原則は、ひとつです。
AIは、「自分を主語として語られた、引用可能なページ」を持つ実体しか信用しない。
独自ドメインの有無ではありません。D店は予約SaaSのページしか持っていませんが、そのページは「D店」を主語に書かれているため、AIはきちんと認識していました。
問われているのは、あなた自身が語った事実が、引用できる形で存在するかどうかです。
3. AIは、質問の種類によって見る場所を変える
ここからが、今回いちばん意外だった発見です。
名指しで聞かれたとき
「A店ってどんなところ?」
このときAIが引用したのは、その店の公式サイトでした。料金も所要時間も、すべて公式サイトから取っています。
「京都で〇〇」と聞かれたとき
「京都で茶道体験ができるおすすめの場所は?」
このときAIが引用したのは——
- 大手旅行ガイドメディア
- 京都市および日本政府観光局の公式観光サイト
- 訪日旅行者向けの「おすすめ〇選」系の記事
体験施設の公式サイトは、一件も引用されませんでした。
つまり、こういうことです。
| 質問の種類 | AIが見る場所 | 対策すべき場所 |
|---|---|---|
| 名指し(「〇〇ってどんな店?」) | あなたの公式サイト | 正しく語られたいなら、ここ |
| 探索(「京都で〇〇」) | 第三者の記事・まとめメディア | そもそも見つけられたいなら、ここ |
この二つは、まったく別の課題です。 そして多くの「AI検索対策」は、前者だけを扱っています。
公式サイトをどれだけ完璧に整えても、「京都で茶道体験」と聞かれたときに、AIがあなたを思い出すことはありません。 そのときAIが見ているのは、あなたのサイトではないからです。
4. 言語ごとに、勝者が違う——ただし業種による
四つの言語で同じ質問を投げたところ、業種によって正反対の結果が出ました。
茶道体験:四言語すべてで、同じ三軒
日本語・英語・繁体字・簡体字——どの言語で聞いても、同じ三軒が必ず登場しました。言語による差は、ほとんどありませんでした。
着物レンタル:四言語すべてに登場した店は、一軒もなかった
| 日 | 英 | 繁 | 簡 | |
|---|---|---|---|---|
| 店① | ● | ● | ● | |
| 店② | ● | ● | ● | |
| 店③ | ● | ● | ● | |
| 店④ | ● | ● | ||
| 店⑤ | ● | |||
| 店⑥ | ● | |||
| 店⑦ | ● | |||
| 店⑧ | ● | |||
| 店⑨(業界大手) | ● |
日本語で推薦された三軒は、他のどの言語にも登場しませんでした。
そして業界大手の一社は、簡体字でしか出てきませんでした。 日本語で「京都で着物レンタルをするならどこ?」と聞いても、AIはこの店を挙げません。
なぜ、こんな差が出るのか
引用元を見ると、答えが分かります。
茶道は、どの言語でも同じ国際的な旅行メディアが引用されていました。同じ記事を見ているので、同じ店が出てくる。
着物レンタルは、言語ごとにまったく違う比較サイトが引用されていました。日本語では日本語の比較ナビ、中国語では中国語圏向けの訪日メディア、英語では英語圏の旅行サイト。別々の記事を見ているので、別々の店が出てくる。
AIが推薦する店を決めているのは、その言語で「まとめ記事」を書いている媒体です。
したがって「多言語対応をすべきか」という問いに、一般的な答えはありません。あなたの業種を、どの媒体が押さえているか次第です。
そしてそれは、測れば分かります。
5. では、どうすればいいのか
今回の調査から導かれる対策は、三つです。
① 名指しで正しく語られたい → 引用できる事実を、自分で置く
料金、所要時間、対応言語、予約の要否。これらを自社サイトに、明確な事実として書く。A店が実践していることです。
「AIに読ませるための特別な技術」ではありません。書いてあるかどうか、それだけです。 B店に足りなかったのは技術ではなく、書かれた事実でした。
そして——予約プラットフォームに載せているから大丈夫、とは考えないでください。そのページの主語は、あなたではありません。
② 見つけてもらいたい → AIが見ている記事に載る
これは自社サイトの作業ではありません。まとめ記事・比較サイト・観光メディアへの掲載、つまり広報の仕事です。
そしてもうひとつ、意外な引用元があります。Reddit です。英語での質問において、AIは繰り返し Reddit のスレッドを参照していました。日本の事業者で、ここを見ている人はほとんどいません。
③ どの記事に載るべきか → 業種と言語ごとに違う。だから測る
茶道と着物では、AIが見ている媒体がまったく違いました。言語によっても違いました。
一般論では答えが出ません。 あなたの業種、あなたの言語圏で、AIが実際に何を引用しているのか。そこを調べる以外に、方法はありません。
6. 効果は測定できます
「AI検索対策をすれば予約が増えますか?」
この問いに、私は「増えます」とは言いません。まだ誰も、その因果を証明していないからです。
ただし、動いたかどうかは測れます。
- 言及率 — 同じ質問を繰り返し投げ、何回中何回言及されるかを記録する
- AI経由の流入 — アクセス解析で、生成AIからの流入を判別する
- 予約数 — 店側が把握している
この三つを施策の前後で追跡すれば、変化があったかどうかは分かります。
現状、多くのAI検索対策サービスは、この測定を行っていません。診断し、レポートを出し、そこで終わります。それでは、効果があったのかどうか、誰にも分かりません。
保証はできない。しかし、測定はできる。
7. この調査の限界
誠実に書いておきます。
サンプルが少ない。 10軒、1モデル、少数回の試行です。統計的な主張はできません。これは「調査結果」というより「事例報告」に近いものです。
AIの回答は毎回変わります。 C店が1回目と2回目で違う答えになったことが、その証拠です。本来は同じ質問を何十回も投げ、分布として捉える必要があります。次の段階で実施します。
そして、いちばん重要な注意点。
生成AIは、利用者の過去の会話を記憶し、それに基づいて回答を変えます。
つまり——ご自身のアカウントで ChatGPT に「京都でおすすめの茶道体験は?」と聞いて、自分の店が出てきたとしても、それは何の証拠にもなりません。
AIが、あなたを覚えているだけかもしれないからです。
本調査は、記憶を無効化した状態で実施しています。測っているのは順位ではなく、「何も知らないAIが、あなたに言及する確率」です。
そしてこう言えます。その状態で一度も現れない事業者は、どのようにパーソナライズされても現れません。
おわりに
この分野には、まだ確立された正解がありません。私自身、当初立てた仮説の半分は外れました。「日本語では出るが中国語では消えるだろう」という予想は、業種によって成立したり、しなかったりしました。
外れた仮説も含めて、記録を公開していきます。この領域でいま最も不足しているのは、技術ではなく実測のデータだと考えているからです。
京都には、素晴らしいのに見つけてもらえていない店がたくさんあります。今回、料金まで正確にAIに語られていたのは、大手ではなく、個人経営の小さな茶室でした。
規模の問題ではないのです。
本稿は個人による研究・情報発信プロジェクトです。特定の団体・大学等とは関係ありません。
調査手法の詳細、および同様の調査にご関心のある方は、ご連絡ください。
鴨川AI検索ラボ Kamogawa AI Search Lab 生成AIは、事業者のことを顧客の言語でどう伝えているか。日・英・中など多言語で調査し、記録を公開しています。